水の本棚
2026-09-11 更新
水道料金と老朽化、地下水、PFAS、気候変動。街の数字を見たあとに読むと腑に落ちる本を、水ジャーナリスト橋本淳司さんの著書を中心に二十冊。
2025年1月、埼玉県八潮市の交差点が突然陥没して、トラックが落ちました。原因は地下を通っていた下水道管の破損。ニュースで見た人は多いと思います。
八潮だけの話ではありません。2021年10月には和歌山市で、紀の川をまたぐ水道の橋(六十谷水管橋)が60メートルにわたって崩れ落ち、川の北側の約6万戸が一週間近く断水しました。つり材の腐食が進んでいたのに、近づいて目で見る点検をしていなかった。2022年5月には静岡県菊川市で、埋めてから40年ほどの水道管が壊れ、約6,700世帯、市の3分の1が水を使えなくなりました。八潮のあと国が全国の下水道管を調べたところ、対策の要る管は47都道府県で748キロ。1年以内に手を打つべきものだけで201キロありました。
このサイトで街のページを開くと、老朽化率という数字が出てきます。法定耐用年数の40年を過ぎた水道管の割合で、全国の中央値は23%。4割を超えている街も1割ほどあります。ただ、数字はそこまでです。管が古いと何が起きるのか、なぜ替えられないのか、料金はどうなるのか。その先は本のほうがよく書いてあるので、ここに並べておきます。
水道管と料金
最初に読むなら、橋本淳司さんの『あなたの街の上下水道が危ない!』です。2025年9月に出た新書で、八潮の陥没から話が始まります。水道管の寿命、値上げが続く理由、支える人がいなくなっている現場、そして民営化は解決にならないという話まで、いま水道で起きていることが順番にわかります。
橋本さんは水ジャーナリストで、アクアスフィア・水教育研究所という小さな研究所の代表です。1967年生まれ、出版社勤務ののち独立。水道の持続が危ないと最初にメディアで言ったのは2006年だそうで、以来20年近く、地下水、料金、民営化、最近はデータセンターと水まで、同じテーマを追い続けています。このページに何冊も出てくるのはそのためで、本で土台を作ったあとは Yahoo!ニュース の記事で最新の動きを追えます。
料金がなぜ街によってこれほど違うのか。10 m³の料金は全国の中央値で1,500円ほどですが、ランキングを見ると何倍もの開きがあります。その理由を経営の側から書いているのが『水道が危ない』です。著者の一人、菊池明敏さんは岩手県の北上市・花巻市・紫波町の水道をひとつにまとめて、2014年に岩手中部水道企業団をつくった人。小さな町が単独では水道を維持できなくなる、という話を、実際にやった人の言葉で読めます。
古い管を全部替えることはできません。では、どの管から替えるのか。『水道を救え』は、その判断をAIでやろうとしたスタートアップ、フラクタの創業者が書いた本です。水道の本というより起業の本に近いのですが、老朽化率という一つの数字の裏にどれだけの判断があるかが見えてきます。
民営化については、橋本さんの岩波ブックレット『水道民営化で水はどうなるのか』が薄くて早い。2018年の水道法改正で何ができるようになったのか、海外で再公営化が相次いだのはなぜか。賛成でも反対でも、これくらいは知っておいたほうがいい、という分量です。
歴史まで遡りたい人には、鯖田豊之の『水道の思想』を。『肉食の思想』で知られる歴史家が、近代水道と都市の関係を書いた1996年の中公新書です。新刊では手に入りにくいので、図書館か古書で。
自分の街の料金と老朽化率は、料金と老朽化のページで見られます。
地下水
水道の水源は4分の3がダムや川ですが、残りの4分の1は井戸や伏流水、つまり地下水です。地下水の街の水は夏でも冷たく、硬度が安定していて、名水百選にも地下水が多い。いいことばかりのようですが、くみ上げすぎれば地盤が沈み、湧き水が枯れ、いちど汚れれば戻るのに何十年もかかります。
守田優さんの『地下水は語る』は、そのあたりを地下水学の研究者が資料をもとに書いた岩波新書です。地盤沈下の話が中心で、東京の地下水位が揚水規制で回復した経緯など、知らないと驚く話が多い。
橋本さんの『日本の地下水が危ない』は、地下水はだれのものか、という問いの本です。民法では土地の持ち主のもの。だから水源地の森が買われると水も動く。2013年の本ですが、翌年に水循環基本法ができて「水は国民共有の財産」と法律に書かれるまでの空気が残っていて、いまの議論の出発点として読めます。
もう一冊、日本地下水学会の『新・名水を科学する』。名水百選の水を、おいしいかどうかではなく水質データで見た本で、正直なところ専門書です。ただ表と地図が多いので、自分の近くの名水の項だけ拾い読みしても面白い。
地下水を水源にしている街は、地下水の街をさがすにまとめてあります。
PFAS
PFOS・PFOAは自然界でほとんど分解されません。泡消火剤や工場から出たものが地下水や川に残り続け、日本では2020年に水道水の暫定目標値(合計で50 ng/L)が決まり、2026年4月からは水質基準になりました。このサイトの元データ(令和5年度)では、検査した約2,300系統のうち50 ng/Lを超えていたのは3系統だけです。少ないと見るか、そもそも検査していない系統が多いと見るかで、話は変わります。
その「見えていなかった」部分を追ったのが、朝日新聞記者の諸永裕司さんの『消された水汚染』です。沖縄の米軍基地周辺と、多摩地域。数字がなぜ長く出てこなかったのかが書いてあります。
PFASとは何で、体にどう影響し、検査で何がわかるのか。基礎から読みたいなら、京都大学の原田浩二さんの『これでわかるPFAS汚染』。原田さんは沖縄や多摩で住民の血液検査を続けてきた研究者で、図解が多く、心配になった人が最初に手に取る本として向いています。
諸永さんには2026年に出た『灰色の鎖 PFAS汚染列島』もあります。出たばかりなので、ここでは題名だけ挙げておきます。
数字の意味と自分の街の値は、PFOS・PFOAの記事にまとめてあります。
雨と川と、これから
日本は雨の多い国ですが、人口で割ると世界平均を下回ります。しかも近年は短い時間に集中して降るので、同じ年に渇水と水害が起きることも珍しくなくなりました。
沖大幹さんの『水危機 ほんとうの話』は、「水が足りなくなる」という話をどこまで信じていいのかを、水文学の研究者が数字で検証した本です。不安をあおる情報と冷静なデータを見分ける目ができます。同じ沖さんが監修した『水の日本地図』は、降水量から水の使われ方までを地図で見せる本で、地図で水をたどるこのサイトとはたぶん一番相性がいい。
川は水源であると同時に、水害の通り道でもあります。河川工学の高橋裕さんが2012年に書いた『川と国土の危機』は治水と社会の話で、川のページで水質を見たあとに読むと、川の別の顔が見えます。
そして、これから。橋本さんが2025年に出した本のうち、未来を扱った二冊です。『水の戦争』はAIデータセンターや半導体工場が各地で大量の水を使い始めている現状の取材で、生成AIとのやりとり数回で500 mLの水が消える、という話から始まります。『2040 水の未来予測』は小説です。2033年の地方都市、2040年の東京、2042年の村。気候変動と人口減少とAIの水管理が、生活の側から描かれます。硬い本が苦手なら、こちらから。
水そのもの
硬度が高いと緑茶が濁る、軟水はだしが出やすい。そういう経験則の裏には水という物質の性質があって、用語集で一語ずつ引くこともできますが、つながりごと知りたいなら本のほうがいい。橋本さんの『通読できてよくわかる 水の科学』は、題名どおり通読できる入門書で、硬度やpH、浄水のしくみまでを数式なしで扱っています。
もっと手前、水分子はなぜこんなに変わった物質なのか、まで行くなら上平恒の『水とはなにか』。1977年に出て、いまも新装版で読まれているブルーバックスです。
子どもと
自由研究で水道を調べるなら、まず街のページで蛇口の水がどこから来るのかをたどって、その先の「世界では」「100年後は」を本で。橋本さんには子ども向けの本もあります。『水辺のワンダー』は世界の水辺を歩いた取材をもとにしたノンフィクションで、小学校高学年から。『100年後の水を守る』は、20年の取材を子ども向けに語り直したもので、大人が読んでも著者の原点がわかります。
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ほかの読みもの
この記事は公開データと公的な資料をもとに書いています。健康や飲用の判断は、お住まいの水道事業者の最新の公表値をご確認ください。